就職ナビの心をつかむための施策
黙秘すると犯罪は確定することができないため、別件の犯罪によって各自2年の刑に服する。
両者とも証言すれば各自6年の刑になる)。
各プレイヤーの刑期は両者のアクションに対応して決まる。
たとえば、Aが「黙秘」したときの彼の刑期は、Bが「黙秘」すれば2年、Bが「証言」すれば8年である。
全プレイヤーのアクション(戦略)の組合せに対応して各プレイヤーが得る満足の水準は、利得と呼ばれる。
AとBの利得が並べて記されている。
たとえば、Aが「黙秘」しBが「証言」したとき、Aの利得はマイナス8でBの利得はマイナス1である。
ここでは刑期が長いほど満足度は低下するので、利得は刑期に負の符号を付けた数字で表されている。
このゲームにおいてAとBはどちらのアクションをとり、利得はどうなるであろうか。
まずBが黙秘する場合を考えてみよう。
その場合、Aが黙秘すればAの利得はマイナス2であるのに対し、Aが証言すればAの利得はマイナス1となるため、Aは証言したほうが有利となる。
同様に、Bが証言する場合もAは証言したほうが有利となる。
このゲームはAとBに関して対称なので、AとBの役割を逆にしても同じことが成立する。
したがって、AとBの両者が独立に自己の利益を最大化するかぎり(別の場所で取調べを受けているのでそうなるであろう)、共に証言することになる。
すると、それぞれの利得はマイナス6となる。
かりに両者が協力して互いに黙秘することができるとすれば、達成できる利得はマイナス2となる。
協力できない場合の利得であるマイナス6はそれよりも小さい。
用語の由来となったゲームであるが、これと類似の状況は現実の社会に多く存在する。
先の職場における情報提供の問題を再度取り上げて、囚人のジレンマ・ゲームになっていることを観察してみよう。
われわれがここで考察するのは、有用情報を提供するか否かが一回だけ選択されてゲームが終了する場合である。
労働者AとBという2人のプレイヤーは、「他のプレイヤーに有用情報を提供する」というアクションと、「他のプレイヤーに有用情報を提供しない」というアクションのいずれかを選択する。
表記を簡単にするために、前者をアクションT、後者をアクションUと呼ぶことにしよう。
Iは協力的なアクション、Uは非協力的なアクションである。
ここでは現実を抽象して、各プレイヤーはアクションを同時に選択すると仮定する(アクションを同時に選択する例は「じゃんけん」ゲームにも見られる)。
厳密にいうと情報提供が同時に行なわれるということは現実にはあまりないが、ここでは時間的なずれを捨象して議論を展開することにする。
表1‐2がこのゲームの利得表である。
まず同表の左上の場合をみてみよう。
ここではAとBがそれぞれアクションTをとり、有用な情報を互いに相手に提供し共有する。
そのため高い生産性が達成される。
この場合の各プレイヤーの利得は3であると仮定されている。
この数値は労働者の満足度を表している(この利得表の満足度は、広い意味の報酬、たとえば賃金+精神的満足を表していると解釈する)。
次に右上の場合をみてみよう。
Aが情報を提供し(T)、Bが提供しない(U)場合である。
Aの利得は1、Bの利得は4と仮定されている。
Bは自分で得た情報を専有でき、Aの情報も利用できるので、高い満足度を(生産性も)達成することができる。
Bは彼の相対的に高い生産性のために職場で称賛を得ることになり、満足感が左上の場合より高くなる。
逆にAは自分で得た有用な情報を専有しない上に、Bから有用な情報を提供されないため、低い生産性しか達成できず、組織内での評価が低くなり、満足感は左上の場合よりも低い水準となる。
善良な人間が成功するとは限らないことを例示している。
左下の場合は、右上の場合におけるAとBの役割を入れ替えたものにすぎない。
右下の場合は、AとBのいずれも相手に自分の得た情報を提供しない場合である。
各プレイヤーは自分の得た情報の承を使い独立して仕事をする。
各自の利得は2であると仮定する。
このときの各自の総情報量は左上の場合より少ないので、各プレイヤーの利得も低くなる。
各プレイヤーは自分の情報を専有し、自己の相対的評価を下げずにすむので、相手に情報を提供するだけに終わる場合よりは高い満足感を得ることができる。
利得構造には類似性がある。
BがIをとる場合に、AはIよりもUをとることによって高い利得を達成できる。
BがUをとる場合も同様である。
さらに、両者がUをとる場合よりも両者がIをとる場合のほうが、各プレイヤーの利得は高い。
したがって、職場における情報提供ゲームも囚人のジレンマ・ゲームの一例である。
ここでも、両プレイヤーはUを選択することになる。
お互いに有用情報を提供しあえば、双方とも高い利得を達成できるのに、自己の利益を考えてそうしないため、双方とも低い利得に甘んじることになる。
次第に詳しく論じてゆくが、このことは短期的な雇用制度が協力の利益をもたらさないことを示唆している。
利得は労働者の満足度を表すが、それと生産性の関係について、説明を若干付加しておきたい。
両プレイヤーによる情報共有が行なわれ、右下の場合には情報共有がまったく行なわれないので、前者における各自の生産性は後者より高い。
たとえば、前者の生産性を6、後者のそれを4とし、それぞれの半分が賃金となり、残りの半分が利潤となると考えてもよい。
このように情報量によって各労働者の生産性が決定されると仮定すると、Aの賃金は2、Bの3となる。
この場合は、両プレイヤー間の賃金(生産性)格差のために右で触れた精神的な要因も作用して、Aの利得は1、Bの4となる。
若干テクニカルな注を付加しておきたい。
ゲームにおいて両プレイヤーがUを選択する状態は、ゲーム論でナッシュ均衡と呼ばれる状態の一例である。
ナッシュ均衡においては、一方のプレイヤーの戦略が所与とされるとき、他方は自己の戦略を変更しようとはしない。
ゲームでBの戦略がUと与えられると、Aは自分の戦略をUからIに変更しようとはしない。
同様なことは、AとBの役割を入れ替えてもいえる。
ナッシュ均衡においては、各プレイヤーは他者の戦略に対して自己の利得を最大化している。
逆に、ナッシュ均衡でない状態では、少なくとも1人のプレイヤーが利得を最大化していないことになる。
ゲーム論が相互依存関係を明示的に分析するということは、次のような意味においてである。
ゲームにおいてAがアクションTを選択したと仮定しよう。
その利得表から明らかなように、彼の利得は彼のこの選択のみでは決定されない。
Bがどのアクションをとるかによって、異なる。
BがIをとればAの利得は3、BがUをとれば1になる。
同様なことはAがUをとったときにも成立し、またBに関しても成立する。
このように個人の選択の承では彼自身の利得が決定されず、他者のアクションの選択にも依存する状況こそが、相互依存関係の存在する状況にほかならない。
比較のために付言すれば、このような相互依存関係がない社会現象も、現実にはいくらでも存在する。
たとえば、ある個人がいま年利3パーセントで定期預金に100万円預金したとしよう。
すると、このアクションによって彼は1年後に確実に103万円を得ることができる。
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